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2010年12月8日水曜日

乾燥断熱減率と温位エマグラム


「温位は乾燥空気を1000hPaに準静的に断熱圧縮(膨張)したときの温度」ですが、気象を勉強していて定義式の奇妙さに困惑されるかたは多いと思います。
また、基礎と言われているのにもかかわらず利用もできない。
私も「準静的に断熱圧縮するエネルギーはどうするのか?」と疑問をもったのですが、参考書を開いてもなかなかスッキリしませんでした。

答えは準静的に断熱圧縮するエネルギーは位置エネルギーを使うようです。

1.静水圧平衡再び
やはり、静水圧平衡が必要ですので繰り返します。定義式までたどりつきたいのでほとんど数学になります。
釣り合いの式は
A×P(z+Δz)+MgA×P(z)  (11
整理すると
V(z)×dP(z)+nmg×dz=0   (12
となりました。

2.温位 
理想気体の状態方程式 P(z)×V(z)=nRT(z)から
V(z)=nRT(z)/P(z)これを(12)に代入整理すると
dP(z)/P(z)+(mg×dz)/(R×T(z))=0  (21
((21)のT(z)の代わりに平均温度T´を用いて積分すると測高公式になりますが…常識的にT´などもちいるべきではありません。)

乾燥断熱減率は
T/dz=-(mg/Cp)  (22
でした。(21)と(22)から普通の温位の定義式を求めてみます。(22)は Cp×dT(z)=-(mg)×dz (微分と言っても割り算です。)ですから、(21)は

dP(z)/P(z)-(Cp/R)×(dT(z)/T(z))=0

となり積分すると
(f(x)=1/x を積分すると ∫f(x)dx=ln(x)+C ですね)

ln(P(z))-(Cp/R)ln(T(z))=Const1 (23

P(z)が1000hPaの時の温度をθ1とおけば、(23)は任意の高さzで成り立ち、1000hPaの高さでも成り立ちますから、静水圧平衡している大気は

ln(P(z))-(Cp/R)ln(T(z))=ln(1000)-(CpR)ln(θ1)=Const1   (24
となります。計算を続けます。

Cp/R)ln(θ1T(z))=ln(1000P(z)) 

θ1T(z)(1000PZ))RCp)        25
と普通の温位の定義式になります。

一方、乾燥断熱減率(22)を直接積分すると
Cp×T(z)+mgz=Const2       (26
です。
ここでもPZ)が1000Paの時の温度をθ2、高さをz1000とおけば
Cp×T(z)+mgz=Cp×θ2 + mgz1000
Cp×θ2Cp×T(z)+mg(z-z1000

θ2T(z)+(mg/Cp)(z-z1000)    (27

(25)のθ1と(27)のθ2は2つとも(22)から求めた同じものです。

  θ1θ2 なのです。
両式とも何かの保存量がもとになっているのが分かると思います。
(27)はエネルギーだと直感的にわかります。詳細は省略(? 乾燥断熱を参照?)しますが(25)はエントロピーが変わらないようにした結果です。

何故、奇妙な(25)を使うのか?よくわかりませんが、コンピューターで気象モデルを走らせるのに、zの代わりに気圧Pを使うのでこれに合わせるためかもしれません。
私の感想は、「気象予報士になろうと勉強している人にとっては迷惑な話だな」です。

3.相当温位
Cp×T(z)+mgz=Const2 (26)はエネルギー保存則を現しているのが直感的にわかると思います。
1モル当たりのエンタルピーと呼ばれるエネルギーと位置エネルギーの合計が一定だと解釈されます。
現実の空気は水蒸気が含まれ、水蒸気が水になるとき潜熱を出します。
26)はいわば乾燥空気のエネルギー保存則です。
水蒸気を含んだ空気は水蒸気の潜熱を考慮しなければなりません。
潜熱を求めるには水蒸気の量が必要ですが、水蒸気の量は分圧の法則から求めることができます。
大気圧をP、水蒸気圧をeとすると1モルの空気にある水蒸気量は
eP モル
と計算されます。
水蒸気を絞り取った乾燥空気は
(P-e)/P モル
となります。
水蒸気の量は少なく、平均分子量はほとんど変わらないとして、水蒸気の潜熱を含めた新しいエネルギー保存則は
{(P(z)-e(z))/P(z)}×Cp×T(z)+mgz+(e(z)/P(z))×LConst3 (31
となります。
(式がみえにくくなりました。次の(32)ではP(z)→Pe(z)→eとします。)
これを、温位にならってエネルギーを保存させ、かつ、エントロピーを変えないように1000hPaまで圧縮します。
今回は、位置エネルギーだけでなく、水蒸気の潜熱もつかって圧縮します。
水蒸気は全部使いはたしたとすると温度θeはエネルギー保存則から

{(P-e)/P}×Cp×T(z)+mgz+(eP)×L={(P-e)/P}×Cp×θe+mgz1000   (32
となりますから
θeT(z)
  +{P/(Pe)}×(mgCp)×(z-z1000)
  +{e/(Pe)}×(L/Cp)   

P(z)≫ e(z)とすると 
θeT(z)+(mgCp)×(z-z1000) +(eP(z)×(L/Cp)(33

33)の両変にCpをかければ、それぞれの項が何のエネルギーであるのか確認できます。Wikipedia相当温位の定義式を確認して比べてみてください。
気象は温位や相当温位を、わざわざ複雑にして定義しています。
Wikipediaにみられる相当温位の定義式と(33)は同じ内容なのです。

4.温位と相当温位
実際の大気は静水圧平衡をしていませんので、変化が続くかどうかあるいは激しくなるか調べる必要があります。
θ=T(z)+(mg/Cp)(z-z1000)    (18
θeT(z)+(mgCp)×(z-z1000) +eP(z)×(L/Cp)(32
を使えば簡単に2つ空気塊を比べることができ、変化の予想ができることがあります。

温位を例にしますと
例えば、925hPaの温位が300kで850hPaの温位が295kだとします。
これは、925850hPaの空気を風船に詰め込んで、位置エネルギーを使って1000hPaまで準静的に断熱圧縮した結果とも解釈できます。

5kの温度差があり925Paの空気のほうが暖かくなります。
18)から、2つの風船を850hPaの高さまで持ち上げてもその温度差はかわらないのがわかると思います。(上図参照)
ブルーの風船の空気のほうが回りの850hPaの空気の質量密度より小さく、ブルーの風船は浮くので上昇流が起こるとされています。
相当温位でも同じような議論ができます。

5.飽和相当温位
「湿度100%以上でないと雲粒はできないか?」で液体と気体の水が混在していると温度が10℃なら水蒸気圧は12hPaと自動的に温度も決まってしまうことを紹介しました。
これは、気温が10℃なら水蒸気は12hPa以上にはなれないことを意味します。
また、気温10℃で水蒸気圧が12hPaなら相対湿度100%です。
相対湿度100%と仮定した相当温位を飽和相当温位とよびます。
飽和相当温位と相当温位を比べると大気が安定なのか不安定なのか分かります。

相対湿度100%の状態を念頭に、気温、露点温度、水蒸気圧にどのような関係があるか確認しておきます。
a)相対湿度100%では気温と露点温度は同じ値になる。
b)露点温度が高いと水蒸気圧が高い
c)同一の気圧の中で水蒸気圧が高いと水蒸気量が多い

同一の気圧で相対湿度100%を条件に気温と相当温位の関係を考えます。
「気温が高い」→「露点温度も高い」→「水蒸気量が多い」
となります。
「気温が高く」&「水蒸気量が多い」→「相当温位が高い」
ですから、結果
「気温が高い」→「相当温位が高い」
となります。
逆に、
「相当温位が高い」→「気温が高い」
となります。
同一気圧で相対湿度100%を条件にすると相当温位が高ければ気温は高いと言えます。

この結果を頭に入れて頂いて、
850hPaの相当温位を300k、500hPaの飽和相当温位を290kだとしましょう。
850hPaの空気塊を風船に詰めてエンタルピーと呼ばれるエネルギーを使って風船の中のエントロピーを変えないように持ち上げます。

CpTはエンタルピーと呼ばれるエネルギーです。
エンタルピーを使うと温度が下がります。
使い道は位置エネルギーの増加です。これでエネルギー保存則を満たします。
温度が下がると途中から相対湿度が100%になります。
100%に達したら、エンタルピーCpTに加えて水蒸気の潜熱も使って、やはりエントロピーを変えないように持ち上げます。
こうした作業はエネルギー保存則をみたし、相当温位の値はかわりません。
やがて風船は500Paに達しますが相当温位は300kのままで湿度は100%です。
周りの500hPaの空気を湿度100%と仮定した相当温位(飽和相当温位)は290kです。

結果、850hPaから持ち上げた風船の中の温度は周りの500hPaの気温より高いことになり、周りの空気より質量密度が小さくなります。
850hPaの相当温位が500hPaの飽和相当温位より高いと大気は不安定だと言えます。

気象関係者SSI飽和相当温位-相当温位関係をしっかり認識しておくべきです。 

… 
分かりにくい説明で申し訳ありません。説明ではなく、単なる私自身の復習になったようです。…
相当温位と飽和相当温位の関係は「習うよりも慣れろ」と、ごまかして教えてこなかったことがたたりました。…


歩いていて心地よい登りでした


6.温位エマグラム
剣二さんのページに温位エマグラムの概念図がありますからチェックしてみて下さい。

私のメモが見つかりましたので参考にして下さい。
どのような現象が起きたのかは、申し訳ありませんが全く記憶がありません。
担当地域外の事例なので、顕著現象が対象だとは思いますが…






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