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2017年7月7日金曜日

なぜ電計は不安定現象がにがてなのか?

なぜ電計は不安定現象がにがてなのか

ここでは、温位とか相当温位を知る方を対象に温位エマグラムの導入までを気ままに説明したいと思います。
SSIと「飽和相当温位+相当温位」の関係
温位についての疑問
空気の持つエネルギーとはなにか?
エネルギー保存則を使って不安定をさぐります
最後に、同じ台風事例で温位エマグラムとエネルギー分布を比べます。
ざっとこんなところでしょうか?

1.SSIと飽和相当温位+相当温位の関係

Wikipedia
によると

「圧力Pのときの空気塊温位(おんい、:potential temperature)とは、その気塊を標準的な参照圧力P0(通常1000hPa)へ断熱的に変化させたときの温度である。」
とあるようです

大気が不安定なのかどうか判定するのに相当温位や飽和相当温位を利用します
相当温位は温位に水蒸気の影響を加えたもので、飽和相当温位は湿度100%と仮定した相当温位です

たとえば、上空5500m付近の500hPaの空気塊の飽和相当温位θe*を計算します
そして、上空1500m付近の850hPaの空気塊の相当温位θeを計算します

大雑把に500hPaの飽和相当温位θe*から850hPaのθeを引いたものをショワルターの安定指数(SSI)と言います
すこし誤差はありますが実用には問題ありません

ショワルターの安定指数がマイナスなら大気の状態は不安定
プラスなら安定と判定されます

気象関係者の中に疑問を持つでしょう。
物理的内容が分かりにくいからです。
通常は
A:500hPaの温度
B:850hPa空気塊を水蒸気を水や氷にしながら500hPaまで持ち上げた温度
SSI=A-B
と習うからです。
たしかにちょっと違うのですが差はわずかです。

こちらのほうが物理的意味は明確なのですが・・
実際の計算は温位や相当温位を使ってプログラムを作ります、筆算ではとても計算できません。

2.温位についての疑問

・・;・・;・・;
^^;・・;^^;・・;^^;・・;^^;・・;^^;・・;^^;・・;^^;・・;^^;・・;

さて、
苦労して温位を勉強した方には申し訳ないのですが・・;
実は温位や相当温位には問題があるのです
温位は500hPaや850hPaの空気塊を1000hPaまで断熱圧縮して比べるのですが・・;

1000hPaまで断熱圧縮して比べるよいのか?
こんな根本問題があります
「何をバカなことを!じゃあどうやって比べるんだ?」
気象を勉強した方は怒りだす方、無視する方いらっしゃると思います。
我慢してもう少しお付き合い願います。

今回(今日は2017/07/06です)の不安定現象は予測できないものでした。
電計は不安定現象が苦手なのです。
私にはこの「何をバカなことを!」に原因があると考えています。


SSIを
A:500hPaの温度
B:850hPa空気塊を水蒸気を水や氷にしながら500hPaまで持ち上げた温度
SSI=A-B
と説明しました。
Bの過程は断熱膨張とさせた温度です。

一般?に気体は自分の中にあるエネルギーを使って膨張します。
エネルギーを使いますから気体の温度は下がります。
温度が下がると、水蒸気が液体の水になります。
そして水蒸気が水になるエネルギーも気体の膨張に使われるようになり・・
・・; fuu~~~

説明をしだすとグタグタしますねえ

しかも、断熱膨張だけですから500hPaまで上っていけません
500hPaの空気と比べられません
学生さんから「屁理屈だ」と言われそうですが

??でも本当に屁理屈でしょうか

3.空気の持つエネルギーとはなにか?
一般に気体は自分の中にあるエネルギーを使って膨張します
でも850hPaの空気塊は位置エネルギーも持っています
事実ですよね

850hPaの空気塊が持っているエネルギーを使って500hPaまで断熱膨張させる
これは、教科書どおりです
しかし、500hPaまで持ち上げる位置エネルギーの増加分は何処から供給されるのでしょうか?
周りの空気からエネルギーをもらって上昇するのでしょうか?
周りの空気からエネルギーをもらってよいのでしょうか?
ほとんどの教科書にはこのエネルギーについて書いてありません

「屁理屈だ」と批判される方もエネルギー保存則の重要性は納得されるのではないでしょうか?
温位は、この位置エネルギーを無視しているのです
正確には無視しているわけではなく結果的に上空の位置エネルギーを過大に評価してしまうのです

このあたりのこまごました説明は
をご覧ください。

しばらく、温位や相当温位をわすれて
空気塊の持つエネルギーどんなものがあるのか確認しましょう。

A:自分の中にあるエネルギーをエンタルピーといいます
エンタルピー:Cp・T
であらわします。
なぜ、こんなになるのかは勉強しないといけませんが単純な形をしていますね。
Cpは定圧比熱と呼ばれる定数です。

B:当然位置エネルギーが必要ですね
位置エネルギー:mgh
高校物理を勉強した方は安心するのではないでしょうか?

C:もう一つ水蒸気が氷になるとき出すエネルギーがあります。
水蒸気のエネルギー:L(E/P)
Lは水蒸気の潜熱
Eは水蒸気圧
Pは850hPaとか500hPaとかの空気の圧力です。
これは、ちょっとめんどうですね。

このABCの3つが主なもので、
大気の安定・不安定を判定するにはこれでよいと思います。
エネルギーをまとめると

CpT+mgh+L(E/P)=Const

Constとしたのはエネルギー保存則ですね。
850hPaの空気塊の水蒸気を全部使って500hPaまで持ち上げたら何度になるか?なんて計算できそうです。
でもこれじゃあ、500と850hPaの空気塊を比べるのは不便ですね。

4.エネルギー保存則を使って不安定をさぐる
850hPaの空気塊のもつエネルギーをCpT850としましょう。

CpT+mgh+L(E/P)=CpT850

これで比べられそうです
500hPaの空気塊のエネルギーをCpT500とすれば

500とT850を比べられますね
どちらの空気塊がよりエネルギーを持っているのかわかります

500-T850
プラスなら500hPaの空気塊のエネルギーが大きい(ちょっと先走りますが・・;安定)
マイナス850hPaの空気塊のエネルギーが大きい(不安定)
となります。

SSIに似ていますね。

細かいことを気にしないと(T500は相対湿度100%として仮定して計算します)
|T500-T850|≧|SSI|
となります
SSIとプラスマイナスは同じで、絶対値は少し大きくなります。
蛇足ですけどT500やT850は500hPaや850hPaの温度ではありません。
位置エネルギーや水蒸気の潜熱も含まれていますので注意してください。 

^^;^^;^^
ここからは、気象を勉強している人でも手ごわい話です

CpT+mgh+L(E/P)=CpT850
をもう一度みてください
実はT850の正体は850hPaの相当温位θeなんです
定義式を見ることができれば見てください

水蒸気を抜いて
CpT+mgh=CpT´850
とするとT´850850hPaの温位θです

??「ホントかよ」と思われるでしょうが「ホント」です

あの奇妙な温位や相当温位の定義式にはエネルギー保存則が隠れているのです。
断熱膨張ですからエネルギー保存則は成り立っているのです。
具体的には「温位は乾燥断熱減率と矛盾してはいけない」のです。
しかし、実際の大気は乾燥断熱減率とはなっていないのが普通です。

あの奇妙な温位や相当温位は、表面的に位置エネルギーがみえませんが、高さhを1000hPa面の高さを0mとし、850hPa等の高さを自動的に計算してしまうのです。

結果、自動的に計算される高さは実際の850hPa等の高さより高くなります。
500hPaになるとその誤差はさらに大きくなります。
これが、上空の温位や相当温位を過大に表現すると言う致命的な欠陥となります。

気象学の温位や相当温位を使うと大気の安定・不安定について間違った判断をすることがあるのです。
・・;ショックな話ですね。

5.台風事例の温位エマグラム
さて、そろそろ結論です
論より証拠ですね
次の図は20060818日09時に福岡で観測された温位エマグラムです
偶然、観測時間に台風の中心が福岡に接近した例です。


要素は右から飽和相当温位、相当温位、温位、湿球温度で、飽和相当温位=相当温位のところは相対湿度100%です。
A点の空気塊はB点まで上昇しますが、B点より上昇できないことになります。
海面付近に相当温位360K程度の空気塊があっても6~7000m程度までしか上がりません。
台風なのに大気の状態はほとんど安定・・?安定は言いすぎかも知れませんが、台風による現象を引き起こす不安定にはみえません。

海面付近の水蒸気が台風の原動力のはずですが海面付近の水蒸気は上昇できないのです。
下層より上層の相当温位が高ければ我々は「絶対安定だ」と降参するしかないのです。
÷あがき?をしている方はいるかもしれませんが、^^;

次の図は理論値のhではなく実際のhを使って温位エマグラムを描いてみました。
ぐだぐだ説明?してきたT500とかT850を使ったエネルギー保存則を用いたやつです。



A点の空気塊はB点を超えて上昇することができ、海面付近の空気もB点を超えて上昇できそうです。
台風らしいですね。
福岡の地上で付近で360K以上の空気塊があれば15000m程度まで上昇すると判断できます
個人的には恐怖をおぼえる分布です

CpT+mgh+L(E/P)=Cpθe

これで各層の相当温位を計算するべきなのです。
また、実際のhを使って温位エマグラムを見ればほとんど等相当温位なので、上空の相当温位を追えば台風の動きを追えると思います。
台風が接近すると台風モデルを結合させて計算するのですが・・
台風モデルは必要なくなるかもしれません。

蛇足
私が長い間つまずき悩んだことなので、コメントしておきます。
準静的な断熱膨張のことなのですが、断熱膨張とついつい言ってしまいます。
ひどい時は単に膨張と言っちゃいますね。
しかし断熱膨張には自由膨張と言うやっかい(?)なものがあります。
準静的断熱膨張といえば自由膨張は入らないのですが・・;
でも準静的断熱膨張と言うのはやはり面倒です。
私は断熱膨張とよび「自分の持っているエネルギーを使って膨張する」と定義し自由膨張と区別してます。
「断熱膨張すると気体自身のエネルギーを使いますので温度が下がる」
「自由膨張も断熱だけど、自分のエネルギーを使わないので温度は下がらない」
これで一応安心していますが、面倒なのしかたないので、憶え込むしかないですね。

蛇足の蛇足
自由膨張を理解しておかないとエントロピー増大則がわからなくなります。
自由膨張を知らなくともエントロピー増大則はなんとなく分かった気分になる落とし穴に私ははまちゃいました。
^^;