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2016年4月17日日曜日

エントロピーと相当温位


エントロピーと相当温位

 相当温位は空気中の水蒸気を水や氷にして、その潜熱で乾燥空気を温め1000hPaまで断熱変化させた温度なのですが、その 計算は複雑で分かりにくいものです。
 原因はエントロピーを使って相当温位を使って定義しているにもかかわらず、エントロピーを隠しているからです。
   ここでは、エントロピーから相当温位を計算してみます。

1.理想気体のエントロピー

 まず、理想気体のエントロピーについて復習しておきましょう。
 
 nモル個の理想気体の内部エネルギーは次のように表せます。
 
 U=n cv T      (1-1)

 温度は粒子の平均運動エネルギーに比例し、内部エネルギーは粒子の運動エネルギーを足し合わせたものです。
 
 さて、nモル個の理想気体にδQの熱量を加えてやるとδQは内部エネルギーを増やすことと膨張して仕事をすることにつかわれます
 
 教科書では次のように書かれます
 
 dU=δQPdV   (1-2)
(1-1)から(1-2)

 δQ=n cvdT+PdV (1-3)

δQTとして準静的過程(可逆過程)を考えると

dS=δQT   (1-4)

とエントロピーが定義されます。

熱力学 横田伊佐秋著 岩波書店 P52~P54などを参照

ですから理想気体のエントロピーは(1-3)Tで割って

dS=ncv dTT+PdVT  (1-5)

理想気体の状態方程式も成り立ちますから3変数を2変数にします
すると(1-5)dSは次の3つの式で表せます

dS=ncv dTT + nR dVV       (1-5...1)
dS=ncv dPP + ncp dVV     (1-5...2)
dS=ncp dTT nR dPP      (1-5...3)

相当温位をエントロピーから理解するには (1-5...3)の関係式が必要ですので、気象を勉強する学生サンは計算して下さい。

もうひとつエントロピーの必要な知識ですが・・;


記述が煩雑になりますので、乾燥空気は1モル水蒸気はnモルとします。


空気のエントロピーSは乾燥空気のエントロピーSdと水蒸気のエントロピーn Seの和
で表せます。

SSd+Se    (1-6)

エントロピーは足し算ができるのです。



2.エントロピーによる温位の計算

まず、温位を計算しておきます。
(1-5...3)1モルの乾燥空気のエントロピーSdに適用して

dSd =p dTT nR dPP
dSd =p dTT R/cp dPP}=ncp {ln TP Rp
積分すると

Sd= cp ln TP Rp + Const    (2-1)

1000hPaまで準静的断熱変化させた時の温度をθエントロピーをS1000とします。

準静的断熱変化ではエントロピーはかわりませんから、
・・と言うよりエントロピーが変わらないように変化させるのですけど・・;

SdS1000

Sd cp ln TP Rp+ Const
S1000 cp ln θ/(1000 Rp+ Const

 θ/(1000RpTP Rp      (2-2)

θT1000P Rp           (2-3)

このように温位はエントロピーから求められるのですね。
何故?エントロピーを隠すのでしょうね?熱力学が嫌いなのでしょうね・・

ところで、乾燥空気の等エントロピー=等温位は、乾燥断熱減率が必然になります。

温位とエントロピーの「2.エントロピーと乾燥断熱減率」参照して下さい
気象を勉強する学生サンは必須です。



3.エントロピーによる相当温位の計算


空気のエントロピーは乾燥空気のエントロピーと水蒸気のエントロピーの和でした

S Sd n Se

教科書では、飽和湿潤空気を断熱膨張させるとしていますが・・

「湿潤空気塊を断熱膨張させる」とはSを変えないよう水蒸気を水することです。

蛇足ですけど

言葉も正しくないのですね・・;準静的断熱膨張に自由膨張を組み合わせても断熱膨張であることには変わりません。

しかしSが変わってしまいます。

しかし、水蒸気は理想気体ではありませんから(1-5)の定義式は使えません・・ 

?どうしたらよいのか・・?


クラジウスークラペイロンの公式なるものがあります (^^
熱力学 横田伊佐秋著 岩波書店 P91などを参照

水蒸気から液体の水への転移熱(潜熱のことですね)1モルについてLとすると

SSeSwLT

となります。

気象を勉強する学生さんは必修です。

忘れても、教科書を開けばすぐ思い出すくらいにはなって下さい。

クラジウスークラペイロンを知らないのはモグリです。

Seは水蒸気のエントロピーSwは水のエントロピーです

簡単ですね水蒸気のエントロピーは
SeLT Sw
ですので
S Sd n Se Sd n LT n Sw


Swは小さいとして無視され、大気中から取り除き

S = Sd n LT             (3-1)

乾燥空気のエントロピーは(2-1)から Sdcp ln TP Rp Const でしたので

S= p ln TP Rp + Const n LT  (3-2)

となります。

水を捨て去ったあとで1000hPaまで準静的断熱変化させた時の温度をθe、エントロピーをS’1000とします。

準静的断熱変化ではエントロピーはかわりませんから

SdS’1000

Sd cp ln TP Rp+ Const n LT
(2-2)を使うと
Sd cplnθ1000 Rp n LT Const
また、
S’1000 cp ln θe/(1000 Rp+ Const

計算が少し煩雑ですがガマンしてください,多分高校生でもできる計算です


ln θe/(1000 Rplnθ1000 Rp n L/cp T
          = lnθ1000 Rp ln exp( nLT)
          = ln θ exp( nLT)1000 Rp
 
       
 θe=θ exp( n LT)               (3-3)


(3-2)(3-3)は大気科学講座2(P21)(2.31)(2.32)に対応するところです。
(2.31)の導出過程は、「こんなことして良いのか?」と思ったような..

さて、水蒸気の量nモルがまだわかりませんね。
これは分圧の法則から
n=PePPe/(Pd Pe
で求めることができます
乾燥空気が1モルじゃないと記述が複雑になることがわかると思います(^^;


う〜〜ん? 相当温位を求めるに温位を使うのは見難いしすっきりしません。
個人的な趣味の問題ではありますが・・; (3-2)を書きかえましょう。

cp ln TP Rp + Const n LT 
 = cp ln TP Rp + cp ln exp( nL/cpT ) + Const
 =cp ln{ TP Rp exp( nL/cpT )} + Const

エントロピーを変えなければよいので次のようなT’があるはずです。

S=cp ln T'P Rp + Const       (3-4)
(実質的に定圧膨張を考えることになります)

T’P Rp TP Rp exp( nL/cpT )

とりあえずnL/cpT は小さいとしましょう。(nは水蒸気圧/全圧 n=PePです)
T’T exp( nL/cpT )T(1+ nL/cpT)=TnL/cp

T’TnL/cp  (3-4)


T’は明らかに定圧でnL/cpの熱を加えた温度で「相当温度」と言うようです
ここから1000hPaに準静的に断熱変化させた温度をθeとするとエントロピーは変わりませんので

p ln θe1000 Rp = cp ln T’P Rp

  θe =T’1000PRp   (3-5)

個人的にはこちらが好ましいです。



4.エネルギー保存則

温位とエントロピーの「2.エントロピーと乾燥断熱減率」で

p T + mgh = const

を導きました。
乾燥空気は上空と下層(地表)の「cp T + mgh」が同じって意味です。
結論は
500hPa850hPaの空気を比べるには、乾燥断熱減率で地表まで下ろして比べればよい」
でした。
温位は位置エネルギーを無視していますので温位で比べるのは誤りです。

なんとなく、同じ1000hPaにすれば比べられる気がしますが・・根拠が無いのですね。

さて湿潤空気では

p T + mgh + L e/P = const  (4-1)

これが成り立っていれば良さそうです。
次のグラフは偶然、観測時間に台風が来たものです。
湿度20000m近くまでほぼ湿度100%で15000mまで等エントロピーになっています。
上空まで湿潤する大気は台風や沿岸前線で見られます。
台風のような激しい現象でも等エントロピーになろうとするのですね・・
では、
何故、ふだんは等エントロピーになっていないのか?
湿潤していなければ等温位で乾燥断熱減率になるはずなのです・・?

晴れていれば、日中は地上から850hPaくらいまで等温位=等エントロピーになります。
台風は上昇流があるでしょうし、晴れていれば太陽からのエネルギーがはいります。
平衡とはほど遠いと思える台風や晴天で、等エントロピーになるのは何故でしょう?
どうも、自然は等エントロピーになるように(エントロピーの増大則)運動が起こると言うことみたいです。(アタリマエか?)

エントロピーを解釈するのは難しい・;
普段、等エントロピーになっていないのは何かのエントロピーを見逃しているのかもしれません。
例えば、空に浮かんで見える雲のエントロピーはどのくらいでしょう?
小さな泡状で空間に分布していたら、かなりエントロピーは大きい気がします。**
台風や晴天では姿が見えなくなる忍者エントロピーってところでしょうか?



金星は等温位となっています。
金星の重力g’は地球gより少し小さいでしょうけど、大気はCO2が中心で平均分子量m’は地球のmより少し大きいでしょう。
結果、
乾燥断熱減率は地球に近いと考えられますから、雲から出発すれば100m毎に1℃程度上がります。雲の高さが50kmもありますから地表の温度が高温であるのは当然ですね。
温室効果を信じるゾンビ学生なんかにはならないで下さいね(^^)
放射冷却を信じるなんてPuバイターですよ

**粒状では質量密度が高くて大気中から落下してしまいます。
泡状で中に高温位の空気を取り込んでいれば浮力を得ることができます。
地球の大気は上空に行くほど温位が高く質量密度が小さくなっています。
泡状なら下降して断熱圧縮しても周辺の質量密度が大きく泡は浮力を受けます。

ブツブツ・・
大気って鉛直方向に混ざりにくい構造をしているのですね。
普段は予想しやすい構造なのですが、台風のように鉛直方向に等エントロピーになる予想は苦手なんですよ。

リハビリは続くか?終わりか?はたまた、また落ち込むか?

2016年4月8日金曜日

エントロピーと温位

エントロピーと温位

 気象学で温位や相当温位は重要な概念であるのですが、これがエントロピーであることが十分に理解されていません。
 等温位の大気は地表と上空のエントロピーが同じであることを表します。
 大気の変化はエントロピーが増大し比エントロピーが同じになるように起こるものです。
 残念ながら、気象学はこの物理学の基礎概念であるエントロピー増大則を無視した混乱した状態にあります

1.同じエントロピーの理想気体
 「等温位の大気は地表と上空のエントロピーが同じ」と話しました。
 基礎物理学では、理想気体の変化させた前後のエントロピーを議論します。
 大気では鉛直方向のエントロピーを議論する必要があるのです。
 ここでは、等エントロピーでも温度や圧力が違う理想気体にはどのような違いがあるのか?考えます
 
エントロピーが同じnモルの理想気体A、Bを考えます

B
A

P:圧力 V:体積 T:温度 S:エントロピー
nモルの理想気体ですから
PaVa=nRTa
PbVb=nRTb
そしてSa=Sbが前提です
Aを下層、Bを上層の空気と思ってもかまいません

エントロピーが同じだとAとBの間には次のような関係があります。

PaR/cp/Ta = PbR/cp/Tb=Const1   (1-1)

VaPacv/cp = VbPbR/cp     =Const2           (1-2)

TaVcv/cp = TbVbR/cp      =Const3          (1-3)

ここで、AとBのエントロピーは同じだが温度などわずかに違うとしましょう。
Pb=Pa+δP
Vb=Va+δV
Tb=Ta+δT
とするのですね

代表して(1-1)を計算しましょう。
PaR/cp/Ta = PbR/cp/Tb=(Pa+δP)R/cp/(Ta+δT)
   =PaR/cp/Ta{(1+(R/cp)δP/Pa)/(1+δT/Ta)}
    
1 =(1+δP/Pa)/(1+δT/Ta)
 =(1+δP(R/cp)/Pa)×(1ーδT/Ta)
 =1 +δP(R/cp)/PaーδT/TaーδTδP(R/cp)/Pa
δTδP/Paは0近似します

δP(R/cp)/Pa=δT/Ta
PaVa=nRT→Ta/Pa=Va/nRとcp ーcv=Rから

VaδP=n cp δT
となります。
結局(簡単ですので計算してみて下さい)

(1)(2)(3)から
VaδP=n cp δT      (1-1・・result)
(cv/cp)VaδP=ーPaδV    (1-2・・result)
ーPaδV=n cv δT                  (1-3・・result)

となりました ・・ ..?

(1-3・・result)に見覚えはありませんか?
δをdと書き直すと

ーPadV=ncvdT
準静的断熱変化の式ですね、これと
PV=nRTと微分したPdV+VdP=RdT
そしてマイヤーの関係式
cpーcv=R
から計算してまとめると(計算してみて下さい)

          ーPdV=ncvdT   (1-1・・div)
(cv/cp)VdP = ーPdV         (1-2・・div)
            VdP=ncpdT         (1-3・・div)


エントロピーが同じなら3つの関係が成立しなければならなので、
3つの関係式は全部同じ物理的内容をもっていることになります。

こうした考え方には馴染めないかもしれませんね^^;

基礎物理学では
ーPadV=ncvdTとPV=nRTから出発して
数学的に保存量(Const1とかConst2)があることを確認します
カルノーサイクルでエントロピーを定義し
エントロピーの性質(増大則)を調べたわけです。

ここで言いたいのはエントロピーから出発し、平衡状態(等エントロピー)では(1-1・・div)(1-2・・div)(1-3・・div)の関係が必要だと言うことです。



2.エントロピーと乾燥断熱減率
静水圧平衡を思い出してください(乾燥断熱減率 を見て下さい)

大気中に厚さ⊿Zの薄い円盤を考えます、円盤の面積をS、円盤中の空気の質量をMとすると力の釣り合いから

SP(z)=SP(Z+⊿Z)+Mg

となります。面積×高さ=体積ですね ^^; S⊿Z=V

0=S⊿Z×(dP/dZ)+Mg=VdP/dZ+Mg
VdP/dZ=ーMg
静水圧平衡で等エントロピーなら
VdP=ncpdT   (1-3・・div)
ですから
ncpdT/dz=ーMg
m=M/nは1モル当たりの質量です^^;気象じゃあなくしちゃうんだよなあ〜
dT/dz=ーmg/cp  (2-1)
大気が平衡状態(等エントロピー)なら乾燥断熱減率は必然となります




3.温位と乾燥断熱減率

PaR/cp/Ta = PbR/cp/Tb=Const1 (1-1)

(1-1)から温位が定義されます
温位をθとすると

(1000)R/cp/θ= PbR/cp/Tb
θ=Tb(1000/Pb)R/cp

θは気圧Pbの温位になりますね
しかし、(1-1)つまりθは平衡状態が前提です。
θと乾燥断熱減率とが矛盾しては意味がありません。
現実の大気は乾燥断熱減率になっていませんので温位で大気を比べることは誤りです。

ではどうすればよいのか?

T/dz=ーmg/cp (2-1)

から・・;

しっくりしないのでzをhと書きましょう

cpT+mgh = const (3−1)

ですね(^^) cpTはエンタルピーと呼ばれるエネルギーです、mghは明らかに位置エネルギーですね。

「エントロピーが同じならcpT+mghと言うエネルギーも同じになる」

ってことです

cpT+mghをエントロピーって良さそうですが・・;

名前をつける必要がありますが

エネルギーをエントロピーなんて言う必要はないでしょうね(^^;

(木村龍治先生あたりが決めてくれると嬉しいなあ)

現実の大気は等エントロピーになっていません(大問題ですが・・;)

500hPaと850hPaの空気塊を比べてみましょう。

温位で比べると


 
イメージですが・・

850hPaの空気塊Aは1000hPaにしても、現実の1000hPaの高さと違います

500hPaの空気塊Bも1000hPaにしても、現実の1000hPaの高さと違い地中にめり込みました

こんな高さの違うAB比べる物理的な根拠はありません。
一緒に並べて比べるべきですね。


それではどうすればよいのか?




 
答えは簡単で
地上まで断熱圧縮し同じ高度=0mで比べればよいのです。
???
でも・・圧力が違いますね?
比べてよいのか?
圧力の高い方(一般にA:850の気塊)を自由膨張*させて同じ圧力にすれば良いのです。
理想気体は自由膨張させても温度は変わらないのです。
温度が高いほうが1モル当たりの体積が大きく、質量密度は小さくなります。
つまり、地上まで下ろした空気の温度の高いほうが軽くて浮くわけですね。


上層と下層のエネルギー「cpT+mgh」を比べれば安定な大気かどうかわかるってことです
ただ、現実の大気は上空にいくほど「cpT+mgh」は大きくなっています。
大気の状態が不安定なのかは水蒸気の潜熱を加えて考える必要があります。 


しかし、温位なんて難しい形にして・・しかも間違えている・・

・・ ・・ ・・ バカだねえ〜〜〜

参考 温位の定義



*自由膨張はエネルギーを加えない、断熱膨張です・・
 いい加減に授業を聞いて「断熱膨張だからエントロピーは変わらない」なんて思うと単位がもらえません
 エントロピーが変わらないのは準静的断熱膨張です
 


リハビリは続く・・;

参考 温位の定義


リハビリは続く・・;